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もてなす心から生れるもの

砺波洋子です。旅の話の3回目です。旅にはいろいろなタイプがありますね。旅の道中を楽しむ旅。見物や食事、そしてショッピングを楽しむ旅。宿屋での滞在時間を楽しむ旅。私自身、いずれの旅のタイプもじっくり楽しむほうですが、今回の旅は、3番目に記した「宿屋での滞在時間を楽しむ旅」でもありました。

建物の中に入ると、佇まいに対するこだわりを感じました。落ち着いたトーンで、あたたかさに満ちているのです。通された部屋は、清楚に整えてありました。明るさ、香り、空気の流れ、どれもがもてなす心から生れていました。ゆったりとソファーに身をまかせてみましたが安堵感に包まれ、心身がのんびりし始めるのを感じました。

手を伸ばせば届くところに、本が置かれていました。自分が置き忘れたかのように錯覚してしまいます。大自然の北海道を舞台にした物語でした。読み進めていく幸せを感じる一冊でした。この本を選んだ方は、この部屋でくつろぐ旅人の心の中をわかっている気がしました。何から何まで行き届いているのはこちらの宿屋の全スタッフのやさしさなのでしょう。このやさしさは、訪れる人に対するさまざまな想像力から生れてきたのだと思います。

水の流れる音がしました。部屋の外には、テラスがあり、自然の中にとけこむように露天風呂がしつらえてありました。大自然のやさしさが私を待っているように思えました。人間が用意したやさしさと、大自然のやさしさとを、行ったり来たりしてみてください、という宿屋のメッセージだと私は受け取りました。わが家でないのにわが家以上にくつろぐ自分がいました。電車を乗り継いでやっと実家に帰って、昔自分が使っていた部屋に入った時のような気分にもなりました。こんなふうに、旅先で、自分と向きあえたことはありませんでした。

朝の目覚めのよさにも驚かされました。心が満たされ、身体が疲労回復し、いやなことが一切思い出されず、その多くを忘れ去ることができ、身体の隅々に至るまで真新しい、瑞々しい気が行き渡ったのでしょう。

旅の話は今回で終わる予定でしたが、もう一度だけ来週書きます。雨天から急激に強烈な日差しと猛暑の陽気にかわる日が増えてきました。熱中症にお気をつけください。